目次:
中圓尾さんのプロフィール
今回のインタビューについて
インタビュー本編
ー身近な人や活動に影響を受けていた幼少期
ー世界に目を向け始めた高校時代
ー楽しむことの重要性に気づいたグリーンズでのインターン
ーグラデーションの中で就職したい
ー大企業に就職しなかったから得られた視点
ー価値観が違うからこそ腹を割って話せる仲間たち
ー自分で舵をコントロールできる環境
ー椎茸祭で感じた達成感の大きさ
編集後記
中圓尾岳大さんのプロフィール:
愛媛県出身、慶應義塾大学法学部に進学と同時に上京。小学1年生から大学までボーイスカウト*¹の活動を継続。大学4年時の1年間の休学期間、特定非営利活動法人グリーンズ(以下、グリーンズ)*²にてインターンを行った。その後、株式会社椎茸祭*³に就職し、椎茸で世界を平和にすることを目標に活動している。
*¹ 野外で、子どもたちの自発性を大切に、グループでの活動を通じて、それぞれの自主性、協調性、社会性、たくましさやリーダーシップなどを育んでいく活動の実施団体。
*² 関係性のデザインを探究して「いかしあうつながりがあふれる幸せな社会」を目指す非営利組織。
*³ 椎茸を中心とした出汁の開発・販売、デジタルコンテンツ開発ならびにイベントの企画を行っている。
今回のインタビューについて:
今回は、去年行われたゼミ内のゲストトークや合宿でも大変お世話になった中圓尾さんにインタビューさせて頂きました。大学時代の1年の休学や職業選択を通して、自分の意思を固く持つようになった中圓尾さん。大学時代に何を考え、何を思い、過ごしていたのか。今回は、その時の考え方の変化や価値観に詳しく迫ります。ぜひ最後までお楽しみください!
身近な人や活動に影響を受けていた幼少期
ー小さい頃の夢は何でしたか?
物心ついた時の夢は大工さんでした。家の近くで新築の家を建設していて、純粋に上の方に登ってカンカンしてるのがかっこいいなと思ったのがきっかけです(笑)実際、愛媛出身で家の裏が山だったこともあって、友達と一緒に秘密基地作ったり、木の枝にブランコぶら下げたりして、自分の手で何かを作るのが好きでした。
中学校時代から高校の最初の頃にかけては理科の先生になるのが夢でした。理科が好きで、学校で仕事できるのが楽しそうだなと。部活を一緒にやったり、生徒と教室で学べるのもいいなと思っていましたね。今振り返ると、多種多様なバックグラウンドを持つ大人の方と出会う経験が少なかったので、身近にいる大人の姿を見て、働き方は影響を受けていたのだと思います。
ーボーイスカウトに興味を持ったきっかけは何ですか?
小学1年生の時に、近くの公民館で行われていた竹とんぼ教室に、保育園の友人たちと行ったのがきっかけです。工作やキャンプを体験できて楽しそうという思いで始めました。キャンプが好きだったこと、一緒にやっている仲間との繋がりが強かったこともありずっと続けていましたね。
世界に目を向け始めた高校時代
ーボーイスカウトを続ける中で、どのような学びがありましたか?
高校生の時に世界中のボーイスカウトが集って2週間キャンプを行う、スウェーデンで開催された第22回世界スカウトジャンボリー*⁴に参加する機会がありました。その時初めて世界中の人々と出会い、世界100ヵ国以上にボーイスカウトがあるものの、紛争や飢餓や貧困で参加出来ない人がいることを知ったのが衝撃的でした。この現状を知ったからには自分も何か行動したいと思い、NPOやNGOの活動に興味を持ちました。元々理系でしたが、それがきっかけで法学や政治学、を学びたいと思うようになり、知人から紹介してもらった慶應義塾大学の法学部を目指すようになりました。
*⁴ 世界スカウトジャンボリー は、世界スカウト機構が主催するボーイスカウトのキャンプ大会(ジャンボリー)であり、全世界のボーイスカウトの最大行事である。4年に1度開催され、現在までに24回実施されている。
↑大学時代の国際協力活動の一環でネパールを訪れる(中圓尾さん提供)
楽しむことの重要性に気づいたグリーンズでのインターン
ー大学4年時に休学してグリーンズでインターンしようとしたきっかけを教えてください。
大学入学当初は国際協力に興味があったので、国際協力に関する専攻をとったり、学外の国際協力のサークルにも入って活動したりしていました。けれど、活動を続けるうちに、自分を捨てて相手のためにやりすぎる部分が出てきてしまって。人のため、社会のために活動すると徐々に自分がおざなりになってしまうドーナツ化現象に直面してしまいました。一生懸命頑張っているサークルの他のメンバーの姿と自分との間に距離を感じてしまうこともあって辛かったですね。
そんな中で、自分も楽しくて社会にとっても良い活動をしている人はいないかな?と思っていた時にグリーンズに出会いました。自分がやりたいことをやりつつ人のために活動するという「ソーシャルデザイン」の考え方を持つグリーンズは、デザインやクリエイティブな方法で社会課題を解決しようと活動していて、それに強く共感しました。
ーグリーンズの活動で得たものは何ですか?
元々何かのスキルを学ぼうと思ってインターンを始めたわけではなくて、グリーンズに携わる人との出会いを求めていました。グリーンズには、本当に楽しそうな人や暗い部分を抱えながらも自分の信念を持つ人など多様性に富んでいて、様々な人がいる中で同じ目的に向かって活動していることが不思議でしたね。様々な大人に出会ったことで、色々な生き方がありなんだということを知り、これまでの自分の人生は縛られていたんだなと気づきました。自分の中でリミッターが外れたというか、どういう風にこれから進んで行ったとしても、自分が楽しめるのであれば良いのだなと思いました。
ーグリーンズで出会った人で印象的な人はいますか?
一番印象的なのは、インターン中に上司だった植原正太郎*⁵さんですね。当時、大学では、みんな大企業に行くのが当たり前みたいな風潮で、自分も大勢の人が歩む道に乗っていました。かなり縛られていた時に、植原さんに出会いました。植原さんは、グリーンズが活動を広げていくためのファンドレイジングに取り組まれており、僕もその中の一つの取り組みであるグリーンズ寄付会員のコミュニティづくりをインターンとしてサポートしていました。ファンドレイジングだけでなく、企業や行政とタイアップした事業づくりに、先駆者が少ない中で取り組んでいる方でした。
それまでの自分は、非営利組織であるNPOは稼ぐのが厳しいはずだという先入観を持っていたので、NPOだからこそできる事業の仕組みを考えられていたことに驚きました。グリーンズが掲げるビジョンとそれを実現するためのエンジン・ガソリン(お金)を両立して取り組まれているのが、自分にとっては印象深かったです。
*⁵ NPO法人グリーンズ 最高執行責任者/事業統括理事
グラデーションの中での働き方
ー最初は就職活動をしていた中圓尾さんですが、どのような心境の変化があって休学を決めたんでしょうか?
まず、僕の父親は地方公務員なんですね。だから小さい頃を思い出してみても、ビジネスの話題が、家庭の中にほとんど無かったんです。そのためか、就活を始めた当初、企業に務める時に持つべき基礎知識みたいなものが他人と比べて圧倒的に少ないなと感じて衝撃を受けました。みんなが当たり前にわかっていることを自分は全然知らない気がして、その時すごく焦ってしまったんですよね。あとは、何が自分を就活に対して突き動かしていたかと言えば、周りの同級生ですね。けっこう躍起になって就活に取り組んでいる友人もいて、自分もそういう周囲の雰囲気に流されていた気がします。
ただ、そういう風に周りの勢いに押されてなんとなく頑張ってみたもののやっぱり就活に対する熱意みたいなものは長くは続かなくて。一度就活を離れたタイミングで、さっき話したグリーンズの植原さんに出会って、インターンを始めて、休学に至りました。
当時を思い出すと、就活からただ逃げたい、休みたいという思いが強かったですね。
ーその時の周囲の反応はいかがでしたか?
両親は一旦就職してほしいという思いが強かったようで、休学にはかなり反対されましたね。確かに両親の言うように、一旦どこかに入ってみて、また違うと思ったら次の選択を考えればいいじゃないかっていう考えも理解できます。ただ自分にとっては、新卒で就職するしないはそんなに大きなことではないと思っていたし、「そもそも社会人って何だ?」みたいな思いもあったんです。何をもって"社会人"と言えるんだろうって。
だからみんないっせいに就活して合否によって線引きするのはしっくり来なくて、自分の興味とその時の流れにしたがって徐々に仕事に取り組んでいくというグラデーションの中で就職できる環境がいいなと思っていました。
両親の説得はなかなか大変なこともあったんですが、植原さんにかけてもらった「1年休んだところで関係ない。人生は短距離走ではなくて、マラソンだから。」という言葉も支えになって、なんとか説得することもできました。とは言っても、今回は違うぞっていう部分を見せないと納得してもらえないと思って、説得するためのプレゼンを事前に色んな方に見てもらい、念入りに準備しました(笑)
ー企業に勤める意味をなかなか見出せなかった中で、今働いている「椎茸祭」にやりがいを見出せたのはなぜですか?
椎茸祭に関しては、まさにグラデーションの中で働き始めたという感じですね。きっかけは、100BANCH*6で椎茸祭を起業した竹村さんに出会ったことです。椎茸という事業のテーマが面白いなと思って、最初はお給料を頂くわけでもなく、お手伝いする感じで楽しんで取り組んでいました。そのうちに、だんだんと出来る仕事の幅も広がって、竹村さんとのやり取りも上手くいき、気づいたら自然と働き始めることになっていましたね。
*6 100BANCHは、渋谷エリアの渋谷三丁目に位置するアクセラレーションスペース。2018年にパナソニックが創業100周年を迎えることを機に構想がスタートした、これからの時代を担う若い世代とともに次の100年につながる新しい価値の創造に取り組むための施設。若い世代を中心としたプロジェクトチームに対して、各分野のトップランナーによるメンタリングの機会を提供し活動を支援している。
↑グリーンズのマルシェイベントに椎茸祭として出店(中圓尾さん提供)
大企業に就職しなかったから得られた視点
ー大企業には行かなかったからこそ気づけただろうという視点はありますか?
難しいですね。自分は大企業に勤めたことはないのでその前提を踏まえて聞いて頂きたいんですが、こういう働き方をしているからこそ「自分で考える」ことは大切にするようになったと思います。
今自分がする一つ一つの選択が正しかったのかそうではないのかっていう答え合わせは、もっと先にならないと出来ないと思うんです。でも正しい正しくない以前に、そういう自分がした選択に責任を持ちながら足掻くことが出来ているというのは日々感じていますね。
ー逆に大企業に勤める人を羨ましいと思う場面はありますか?
コストをかけずに、色々な人に出会えることかな。大企業だと、社内だけでも先輩後輩や同期など様々な人の考え方に触れられるし、取引先の方もたくさん出入りしますよね。僕自身に関して言えば、今は一緒に椎茸祭を進めさせて頂いている竹村さんとのやり取りが大部分を占めていて、たまにクライアントさんとコミュニケーションを取ることもありますが、大企業と比べると圧倒的に少ないんですよ。今はコロナで自分から新しい繋がりを求めに行くことも難しいので、尚更そういう面では羨ましく思います。
あとは自分が家庭を持つ時に、大企業だと自分のキャリアとか色々と予測できることが多いと思うから、そういう安心感が得られているのは羨ましいですね。
価値観が違うからこそ腹を割って話せる仲間たち
ー中圓尾さんは就活や進路等で悩んでいるときに、誰かに相談していました?
大学の仲良い友達2人には相談してました。サークルでフィリピンに2週間行った時に、仲良くなったメンバーです。でも、3人とも本当に考え方が違って…。1人は昔から官僚になりたいと言っていて今は省庁で働いてるし、もう1人はバリバリ稼ぎたいと言っていて当時の選択肢の中で一番稼げる企業に行き、僕だけ割と就活したくないって思っていて。でもそういう話を、3人とも価値観が全く違ったからこそ、気にせず共有できたっていうのは大きいです。本当に仕事を始めると、似たような価値観を持った人ばかりに出会うんですよ。だから違う価値観とか環境にいる人を本当に大切にした方がいいなと思いました。
自分で舵をコントロールできる環境
ー中圓尾さんにとっての幸せって何ですか?
自分が今まで影響を受けた言葉になぞらえていうと、ボーイスカウトの中で「自分のカヌーは自分で漕げ」という言葉があって、それはすごく昔から頭に残ってますね。自分でちゃんと舵をコントロールできてるっていうこと、かつ、方向性やスピードもコントロールできる環境にいるのはすごく幸せなことだなって。その状態になるためには、きっと色々なものを積み重ねないといけないし、とても難しいと思うんです。だからこそ、そういう状態でいられるのはとても幸せだと思います。
ー人生において一番大切にしていることってありますか?
もともと人に合わせてしまう性格で、自分の意思も定まっていない人間だったんですけど、大学時代や職業選択を通して、追い詰められた時に自分はこうだ!と選べるようになったんです。そこから、すごい自分の人生の方向が変わった気がしていて。そういう意味でいうと自戒も込めて、自分の気持ちは大事にしないといけないなと思ってます。
椎茸祭で感じた達成感の大きさ
ー仕事において、中圓尾さんはどこにモチベーションを感じますか?
仕事って基本辛いことの方が多いんですけど、たまにボーナスチャンスみたいなすごい嬉しいことがあって!例えば、すてきだなと思っていた小売店さんから椎茸のお出汁を取り扱いたいと連絡が来たりとか、海外への輸出が決まったりとか、忘れた頃にこういうワクワクするイベントが入って来るんです。その時が、すごいテンション上がるんですよ。それは仕事やっていく上でのモチベーションに繋がっているなって思います。
あともう1つは、2年仕事をしてみて、自分のやったことが会社とか仕事にだんだん積み重なっている実感があることです。振り返ると、やっぱり達成感があるし、モチベーションになっているなと思います。
ーこういう達成感の大きさは、大企業じゃなく椎茸祭を選んだからこそ得れたものかもしれないですね。
少人数の組織だからこそ得られる達成感はあると思います。ただ、僕が椎茸祭で好きを仕事にしてすごい満足!というのは違っていて。僕にとって椎茸祭の活動は「なんかおもしろそう」「ちょっとやってみたいかも」そんな気持ちから始まりました。「好きを仕事にする」ってよく言われるけど、僕も含め多くの人にとっては難しいことだと思っています。例えば僕は山でボーッとするのが好きですがそれを仕事にするのはなかなか難しいです。
「好き!」と明確に言えなくても、「やってみたい」「ちょっと気になる」そんな小さな気持ちからでいいから目の前の仕事に没頭することはすごく達成感があります。嫌いじゃないことで少しでも人の役に立つ仕事ができていれば合格点だと思います。周りからのいろんなプレッシャーに怯えていた大学時代の自分に教えてあげたいですね。
編集後記:
就職活動中に感じた違和感に一度立ち止まって向き合いながら、自分なりの働き方を模索する中圓尾さん。ちょうど就職活動を終えた著者一同、自分自身の経験と重ね合わせつつ、また時には新しい気づきを頂きつつ、興味深くインタビューさせて頂きました。
中圓尾さん、貴重な機会をありがとうございました。
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