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【いきかた図鑑No.2】~浜中俊夫さん~

目次

今回のインタビューについて

浜中俊夫さんのプロフィール

インタビュー本編

職業選択について

  ー「農家を継ぐ」という選択と葛藤

  ー農家は「やらされる仕事」ではない

  ー生まれ変わってもきっと農家になることを選ぶ

大切にしていること

  ー良い作物を作り、広めたい

  ー大切な家族の存在

今後取り組みたいこと

  ー未来に向けて。マニュアル化とコミュニケーション。

皆へのメッセージ

編集後記


今回のインタビューについて

私たちいきかたずかんが所属する牛島利明研究会には、3つのソーシャルプロジェクトがあります。その中の一つがめぐるめ。生産者から消費者に至るサプライチェーンを理解し、生産者や地域の人々との連携で地域のブランド価値を向上させ、食の楽しさや喜びを発信する活動をしています。

今回お話し頂いた浜中さんは、昨年めぐるめが一緒に商品開発させて頂いた、八王子のパッションフルーツ農家さんです。

皆さんの身近には「農家」の方っていらっしゃいますか?または皆さん自身や周りの友達に「家業を継ぐ」人はいらっしゃいますか?家業として農家を継ぐことが決まっていた浜中さんが、今まで何を考え葛藤しどのように選択してきたのか。その人生に迫っていきます!


浜中俊夫さんのプロフィール

農園「浜中園」の代表。パッションフルーツを初めて食べたときの美味しさに衝撃を受け、栽培を始める。八王子パッションフルーツ生産組合の中心人物の1人で、栽培技術の向上やパッションフルーツの普及に力を入れている。普段は気さくで優しいが、農業に対してとても熱い想いを持っている一面も。家族や仲間からの信頼も厚い。



「農家を継ぐ」という選択と葛藤

ー浜中さんが農家になることは、幼少期から決まっていたんですか?

そうですね。うちの畑の面積って2町歩くらいあって、八王子のなかでもまあまあ大きいほうの農家なんです。だから小学生の頃から、いずれ継ぐんだろうとは思っていました。小学校低学年の頃はよく畑仕事の手伝いなんかもして、親父とおふくろの背中を見て育ってきましたからね。やらない理由もなかった。

まあもっと頭が良かったら他の仕事に就いてたかもしれないけど(笑) 


ー後を継いで農家になることに躊躇はなかったですか?

ありましたありました。もちろん。やっぱり周りもそれぞれの将来を選択していってる中で、「本当に農家になるか」っていう葛藤はありましたよ。

でも同時に、なかなか他にやりたいことも見つからなくて...自分の勉強への熱が入らなかったんですよね。きっと今思うと「自分には農家がある」っていう甘えもあったのかもしれないですね。

農家は「やらされる仕事」ではない

ーお子さんに農家を継いでほしいと思いますか?

そうだね。ある程度の年齢になったら継いでくれたら嬉しいとは思います。うちなんかは畑の面積もけっこうある方なので、もう一代は続けたいな。まあさすがに「やらされる仕事」ではないので無理強いはしませんけどね。もちろん大学行って大企業行ってっていう選択肢を選んでも別に全然良いと思ってます。途中から継いでくれてもいいしね。


ーなるほど。お子さんと一緒に農作業することもあるんでしょうか

いや~、もうそういう年頃じゃないみたいだね。今は自分の遊びにいっぱいいっぱいみたい(笑)


ー今、農家を継ぐか迷ってる子に対してアドバイスはありますか?

うーんある程度、好きか嫌いかっていうのも大事ですよね。虫がめちゃめちゃ嫌いとかはちょっとね(笑)

責任を持ってできるかも大事かな。農業って凄く幅が広いんですよ。僕みたいに一生懸命やる系の農家もいれば、片手間にやる人、米しか育てない農家なんかもある。そういう風にタイプが色々あるから、「自分の生活サイクルやタイプに合っているかしっかり一度考えて選んだら?」っていうのはアドバイスとして伝えたいね。


生まれ変わってもきっと農家になることを選ぶ

ー浜中さん自身は、もう一度生まれ変わるとしたら同じ道を選びますか?

いや~どうかな。僕医者になりたいっていう夢があったんですよ。22歳くらいの時にふと思って。だってかっこいいじゃないですか(笑)医者のドラマとか観るとやっぱり憧れますよ。

でもそれ以外だったら農家を選ぶかな


ーそうなんですね。では農家の道を選んでよかったと思う瞬間、やりがいを感じるのはどんな時ですか?

やっぱり買ってくれた人に「美味しい」と言ってもらった瞬間かな。実はうちってもともとは植木屋さんだったんですよ。だから植木を生産して造園屋さんに売るっていうのがメインだったんですね。でも最近はパッションフルーツや野菜を作ることが増えてきて、よりお客さんの反応がダイレクトに返ってくるようになりました。農協の直売所やスーパーなんかを通してお客様に提供する機会が多くなったから、そういう意見をいただけることが増えて。やりがいはより感じるようになりましたね。


ー逆に、農家を選んで後悔したことはありますか?

いや~そんなに...無いですねえ。休みが取りづらいのは若干あるけど後悔ではないしなあ。ただ、農家になるとやっぱり時間に制約はあるんですよ。だから旅行とかになかなか行けなくなるっていうのはあるかな。思い返してみると25歳くらいから海外旅行とかは一度も行けてないね。 


ーなるほど。では農家も含めて一次産業を仕事にする難しさってどこにありますか?

やっぱり身体が資本だから、身体を壊さないように適度にやるっていうのも大事なことですね。あとは、家族と一緒に仕事するから、プライベートと仕事の境界が分けづらいっていうのはあるかな。


ー浜中さんが影響を受けた人ってどんな方ですか?

農家の先輩には色々学ばせてもらいましたね。例えば、「浜ちゃん、同じ作物をずっと作ると飽きるからやめとけよ。」とかね。1年中同じ作物を作るのってけっこうきついんですよ。だから季節に合ったものを作ったほうが自分のモチベーション的にも作物の質的にもいいよって教えてもらったり。

あと、農家ってどうしても家族との関係性が非常に重要になってくるんですね。いつも一緒にいるとお互いイライラしてくるじゃないですか(笑) だから、長く続けるために適度な距離を取ったほうがいいよっていうのもアドバイスしてもらったな。


ー農家になって良かったと思いますか?

うん、良かったと思いますね。パッションフルーツの栽培を始めてからは特にね。パッションフルーツに出会って、「自分の作物見つけた」って感じで。自分のやりたいように自由にできるのはやっぱり面白いからね。



良い作物を作り、広めたい

ー仕事において、大切にしていることはありますか?

日々畑と向き合うことかな。地味な仕事もコツコツ取り組み、良い作物を作りたいという思いが強いですね。長年の経験に裏打ちされたノウハウを頼りに栽培しているので、畑にいる率も非常に高いんです。


ーパッションフルーツに関してはいかがですか?

パッションフルーツを育て始めてもう10年近くになります。売上的にはまだまだ伸びしろがあって成熟の域ではないけれど、パッションフルーツの輪が広がっているなと感じているね。元々、八王子だけを売り場にしたくないという思いがあったので、全国的にパッションフルーツを広めるという目標には徐々に近づいて来ているんです。


ーなるほど。目標に向けて励む上でモチベーションはありますか?

そうだな~、もちろん売上という成果もモチベーションの一つだけど、ポケットマルシェ*¹やカタログ販売の雑誌に出たり、新聞やテレビに取り上げられたりすると非常に嬉しいものです。めぐるめ(牛島利明研究会プロジェクトの一つ)と関わり始め、パッションフルーツを用いたチョコレート商品を製作したことで、形になることの喜びに気付きました。あとは、リピーターが増えると本当に嬉しいですね。また「来年もお願いします」というお客さんからの言葉は心に響きます。


ポケットマルシェ*¹とは…ポケットマルシェ(ポケマル)は、農家・漁師さんが直接ネット上で旬の食材を出品・販売するオンラインマルシェのこと。


ー素敵ですね。一方で挫折や農家が嫌になることはありませんか?

そんなにないですよ。天候などを理由に自分の思い通りにならないことはあるけれどね。台風の被害もあるけれど、普段からバランスよく農業をしているので一つの想定外によるダメージは大きくなりづらいです。

ただ、体がきついときは嫌になることもありますね。それでも家族を養っているという使命感は大きいので、常に頑張ろうという気持ちになります。


大切な家族の存在

ー浜中さんにとって家族の存在とは?

一番の支えかな。子供たちが元気に育ってくれることが幸せです。みんなが元気でいてくれて、やりたい仕事をやれている今の人生の満足度は高いです。


ー農家に嫁がれた奥様には葛藤はあったのでしょうか?

葛藤はあったと思います。農家のお嫁さんが周りにいないので。沢山苦労をかけているなと感じています。子供が大きくなって手がかからなくなった今では農業を手伝ってくれているので、本当に感謝ですね。



未来に向けて、マニュアル化とコミュニケーション

ー今後取り組みたいことは何でしょう?

やっぱり農家の仕事のマニュアル化ですね。今は家族経営ということで基本的に自分たちで取り組んでいるんですけど、今後の成長に向けて誰かに手伝ってもらうためには、それ相応の準備をしておきたいなって思いますね。


ーなるほど。新たにマスターしたいスキルとかありますか?

コミュニケーション能力ですね!

周りの意見を拾って活かす力を身に着けたいって思うんですよ。農家で会議をすると、求められるのはその力なのかなと感じるんです。自分の意見を発信するだけじゃなくて、周囲の意見を拾って広げていけるようになりたいと思いますね。


自分の今いる場所を把握する

ー最後に伝えたいことはありますか?

そうですね~昔ね、選択理論について学んでいたんだけど、その学びの中で、全員で結果を求めることに対して競争的な自分がいることに気付いたんだよね。その学びは農家にも活きていて、直売所って売り場の面積が決まっているから、その中で競争するんじゃなくて、もっと外で勝負できるものを作って、売り場を広げていく必要性に気付けたんです。だから、皆にも外に目を向けることを大切にしてほしいって思います。


ー外に目を向ける必要性ですか。なるほど。

あとはね、組織でのポジショニングを大事にしてほしいかな。組織において、自分は何をすべきポジションにいるのかを把握した上で行動するのって大切だと思うんだよね。みんなにリーダーシップポジションについてほしいし、一歩下がってサポートする立場に回ることも重要だと感じます。自分の人生で感じたことだから、みんなにも大切にしてほしいですね。



組織の内外、どちらにも目を向ける必要があるんですね。

浜中さんありがとうございました。



編集後記

八王子の農家として幅広くご活躍されている浜中さん。家業を継ぐという自然な流れで農家の道に進み、熱心に活動されているのが印象的でした。さらに、家族への感謝の言葉をたくさん話してくださったり、インタビューの途中で息子さんが隣でバナナジュースを作っていたりと、ご家族の仲の良さが伝わってくる、心がほっこりするようなインタビューでした。

浜中さん、貴重なお話をありがとうございました。


*記事内の写真は浜中さんよりご提供いただきました。

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